「よく考えるもんだねぇ。つくづく感心しちゃう」


「まずはお前に目を付けたのはさすがじゃな。一番簡単に片が付くうえ、永久への打撃も一番大きい」


「一番簡単・・・か」


なーんか腹が立ってきた。

あたし、連中からモロに軽く見られてるよね?


確かに絹糸やしま子や、お岩さん達に比べればあたしなんてチョロイもんなんだろうけどさ。


「まったく後ろ盾の無い当主の就任など、権力者達にとっては千載一遇の好機じゃ」


「これからも目の色変えて、あたし達を門川君から引き離そうとしてくるだろうね」


「永久を完全に無防備にするためにの」


「・・・ピンチだよね」


「危機とは好機の裏返しでもあるさ」


障子がスッと開いて、着替えを終えた門川君が私室から出てきた。


白い羽織袴。白地に黒く『門』と『川』の模様が染め抜かれている。


以前にも見たことがある、これは門川君の正装だ。


「後ろ盾は味方であると同時に枷でもある。その点、歴代当主の中で僕ほど縛りの無い当主はいない」


「なるほど。ものは考えようじゃの」


「門川を変えるために縛りは少なければ少ない方が良いさ」


そっか。うん。その通り!

現状を嘆くよりも視点を変えて方向性を探る方が、よっぽど建設的だよね!


門川君エライ! やたら前向きじゃん!


「君のお陰だよ」

「あたし?」


小首を傾げるあたしに、涼やかな目が話しかける。


「君の貪欲なまでの猪突猛進さに影響されたんだ」


「確かに小娘と一緒じゃと妙な元気が湧いてくるからのぉ。逆に脱力するのもしょっちゅうで困りものじゃが」


「あの、褒めるかけなすか、どっちかにして欲しーんですが」


「だからこそ、生涯僕の隣にいて欲しいんだ」


門川君は透き通った瞳で、あたしをじっと見つめる。


「そばに居れば、無敵。僕はそれを信じている。だから君にも信じて欲しい。自分自身と、僕との未来を」