神様修行はじめます! 其の三

「お前が雛型となる事には、ただ当主様をお守りする以上の意味がある」


グラグラと揺れる心を持て余すあたしの耳に、御簾の奥から静かな声が忍び寄る。


「意・・・味?」


「お前は大罪人の孫娘じゃ」


「・・・・・っ」


「皆がそれを知っている。そしてお前を庇うあまりに、当主様のお立場が危うくなっておられる」


ヒタヒタと・・・


声が忍び寄る。


頭の中に、心の中に。


細い細い、粘り気のある極細の糸のように絡みつく。


御簾奥という別世界からの、見知らぬ女の声が・・・



お前の存在は当主様へ災いをもたらすのだ。


実際に、悪評という形で当主様への弊害がすでに表れてきている。


だが・・・


ここで、お前が雛型になればどうなる?


人は「自己犠牲」という美しき言葉に弱い。


我が身を犠牲にして他者へ尽くすことを美徳とし、手放しで称賛する。


『あの大罪人の孫娘は、我が身を犠牲にして当主様を守ったそうだ』


『大罪人の孫とはいえ、見上げたものよ』


『当主様には、人柄を見抜く力量がおありだったという事だ』


『可愛がっていた端女を犠牲にし、我等と、この世界を当主様が守って下さった』


『何を犠牲にしても、我等を守り抜くお覚悟が、当主様にはおありなのだ』


『さすがは我等が当主様』


『心よりご信頼申し上げるに相応しいお方』


『我等の忠誠は、門川 永久様へ捧げるべきである』


『門川の、他の誰でもない、永久様に・・・』


『我等が当主、永久様に・・・・・』