神様修行はじめます! 其の三

「転移は無事終了したぞ。天内の娘よ」


隣の刺客の男の声に、あたしはゆっくり右手を下ろす。


あ・・・転移、したの? あ、そ・・・。


足元の図式は跡形も無く消え去っていた。


しかし・・・


「空間転移なんて大層なわりに、やたらめったらアッサリ終了してない?」


実はちょっと緊張というか、微かな期待みたいなものがあったんだけど。


あっさりすぎて気抜けしちゃったよ。


映画みたいに物凄い閃光が走るとか、グニャグニャ歪んだ空間が見えるとか。


ないの? そーゆーのって。


映画だと転移を終えた人間なんて、もう疲労困憊してグッタリと・・・


隣の男が呆れる。


「元々、敵に気付かれずに移動するための宝珠だぞ? そんな派手な演出で、しかも疲弊してどうする」


「でも凍雨君が現れた時は花火が鳴ったよ? かなり派手に」


「花・・・火?」


「しかも、空から落っこちてきたもん。絹糸が受け止めなかったら大惨事だったよ」


「・・・あの当主はまだまだ未熟なようだな」


刺客の男は気を取り直したように口調を変えた。


「さあ、あのお方達にご挨拶を申し上げろ」


あのお方たち?


・・・・・って、どれよ?


あたしは視線をぐるりと回した。


大きな室内だった。うちの学校の体育館ぐらいはあると思う。


そしてまさに体育館みたいに、無駄な装飾がほとんど無い。


木の床、木の壁、木の天井。窓はない。


全部が白木だ。総ヒノキなのかな? だとしたら相当金かかってるわねこりゃ。


太いしめ縄が室内をぐるっと巡り、紙垂が天井からビッチリと垂れ下がっている。


なんだか門川の道場に似てる感じがするけど、ちょっと違う。


ここってどこなんだろう。


一方の壁一面を覆うように御簾が掛かっていた。


綺麗に目の整った、薄い竹の網目の向こうが薄ボンヤリと透けて見える。


そこに・・・三人の人影が映っていた。