神様修行はじめます! 其の三

「どちらでもお前の好きに選べ」


好きになんて選べないじゃないよそれじゃ全然!


氷血の一族は、生きていくのもやっとな地域から戻って来たばかりなんだよ!?


泣いて大喜びしているところに「今すぐ元の場所に帰れ」なんて!


鬼!? 悪魔!? 人でなし!?


そんなのできるわけないじゃないの!


唇を噛み締め俯き続ける凍雨君。


そうか、凍雨君は人質をとられて脅されていたんだ。


氷血の民を守らなければならない、当主としての立場を逆手にとられて。


今思えば、確かに様子が変だった。


端境の屋敷に現れてからずっと妙なくらい明るかったし。


権田原に同行させてくれって懸命に頼み込んでたし。


かと思えば、権田原に着いた途端に無口になってしまった。


あたし達に秘密を抱えている事実から、必死に目を逸らしていたんだろう。


でもいよいよその時が近づいて、重苦しい心と葛藤していたんだ。


彼は自分の一族を裏切れない。


当主になったばかりの彼には、頼れる仲間は誰も居ないし。


いいなりになるしかなかったんだ。


・・・なんて卑怯なことするのよ!


絹糸の時も、お岩さんの時も、人質とって脅しをかけて!


本当にやってる事が千年前から全然変わらないのね! 伝統行事か!


辞書引いたら『門川』の欄に『脅すこと』って明記されてんじゃないの!?


「さあどうする? 来るのか来ないのか?」

「・・・行くわよ!!」


ヤケクソで叫んだ。


凍雨君が、すがり付く様な悲しい目であたしを見た。


権田原以外では門川君にとって唯一、本当に味方になってくれそうな一族なんだもの。


それをみすみす遠方に追いやるわけにいかない。


それよりなにより・・・


氷血一族の民を、これ以上不条理に苦しめるわけにはいかない。


「行きゃいいんでしょ行きゃ!」


行ってやるわよ! さっさと案内しなさい!