神様修行はじめます! 其の三

あたし達は絹糸と門川君の姿が、あっという間に見えなくなるのを見送った。


「さあそれでは皆様、参りましょう」


セバスチャンさんの言葉に揃って頷く。


お岩さんが端境の術師達に釘を刺した。


「あなた方、分かっているでしょうけれど愚かな行為はしない方がよろしくてよ?」


「ふんっ。百姓当主の分際でなにを偉そうに」


「なんですってええぇぇ――!?」


「ジュエル様、相手になさらないで下さい」


「凍雨君。だから沈めないってば。氷の厚さも確認しなくていいってば」


あたし達は大急ぎで庭を突っ切り、屋敷内を駆け抜ける。


ひょっとしたら術師が襲い掛かってくるかと警戒したけど、その心配は不要だった。


中はシンと静まり返っている。


きっと異形のモノが入り込まないよう、もうすでに結界を張る準備に入っているんだろう。


他の者達は不測の事態に備えて、どこかに避難したのかもしれない。


お陰で何の邪魔もなく、あたし達は正面の牛車にたどり着くことができた。


「おぉ―――・・・」


凍雨君が牛車を間近で見ながら感嘆の声を上げる。

なんだかちょっと嬉しそう?


「さ、参りましょう! セバスチャン急いで!」

「はい、ジュエル様」


牛車は猛スピードで走り出した。


さすがに強い揺れと激しい振動が身体に伝わってくる。


来た時とは段違いのスピードで窓の外の景色が流れていった。


固い表情のお岩さんに凍雨君が遠慮がちに話しかけた。


「ここから権田原まではどれくらいかかるんですか?」


「それほどかかりませんわ。だから大丈夫。きっと大丈夫ですわよ」


そう自分に言い聞かせるように繰り返すお岩さん。


顔色が悪い・・・。


あたしはお岩さんの手の上に、自分の手を重ねた。


「うん。きっと大丈夫だよ。お岩さん」


「・・・・・」


「いざという時の権田原の強さはハンパないもん。心配ないよ」


「えぇ。もちろん分かってますわ」


それでも固い表情を崩さないお岩さんの肩を、あたしは抱き寄せた。