ほおぅ・・・とひとつ、大きな息を絹糸が吐いた。


「まさか、千年も続いていたとは夢にも思わなんだ。とうに逝ったとばかり・・・」


そしてゆるゆると首を左右に振る。


セバスチャンさんが軽く握った拳を口元に当て、考え込むように言った。


「しかしそのような大きな惨劇の記録が残っていないというのは・・・」


「記録など、時の施政者によってどうにでも都合良く変えられてしまうものじゃ」


「・・・そうですね。門川にとっても誇るべき歴史でも無いでしょうし」


「うむ。だが端境にとっては忘れられぬ屈辱の歴史なのじゃろう」


「それにしてもなぜ・・・」


「ねぇ絹糸、大罪って、言ったよね?」


セバスチャンさんの言葉は、あたしの声によって掻き消された。


みんながあたしの方を見る。


「いかにも。これが千年前の大罪じゃよ」


「・・・・・誰が?」


「?」


「誰? 本当に大罪を犯したのは・・・誰なの?」


絹糸とセバスチャンさんとお岩さんの無言の視線を感じる。


あたしは、俯いて自分の足元をじっと見ていた。


罪。大罪。起きてしまった惨劇。


夫の命を選んでしまった雛型。


雛型と端境一族を赦せなかった世界の人々。


雛型の家族を責める事しかできなかった端境。


その全てを利用した門川。


誰が悪かったの?


一番悪いのは誰?


誰が被害者で誰が加害者?


誰が誰に対して償わなければならないの?


それとも、千年も昔の事なら、もう全ての罪は消え去ったの?


時間さえ経てば赦されるの?


・・・違う。雛型は今も償い続けていた。


家族全員、命を落としてまで償ったのに。


犯した罪は、その事実は永遠に消える事なんかないんだ。


なら・・・


あたしのじー様の罪は・・・


じー様の、孫であるあたしが背負うものは・・・