神様修行はじめます! 其の三

「それからはもう、坂道を転げるがごとく、じゃ」


ついに限界に達した妹が、短刀でノドを突いて自決した。


その姿を見た母親も耐え切れなくなり、精神に異常をきたして亡くなった。


遺された雛形の夫は、家族を弔うことも許されなかった。


大罪人の家族だから。


たったひとりで、夜中にこっそり、人知れぬ山中に三人分の亡き骸を土に埋めて・・・


一晩中むせび泣いた。


そして夫は身を隠した。


自分は殺されるわけにはいかなかった。


雛型が術を施される前夜、妻と・・・固く約束したから。


『あなた。これからきっと針のむしろの日々が続くでしょう。それでも耐えて待っていてくださいますか?』


『もちろんだ。どんな責め苦も耐えてみせよう』


『罪を償い終わったら、また家族揃って暮らせますね?』


『ああ。その日が来るまで待っている』


『迎えに・・・来てくださいますね?』


『迎えに行くよ、必ず。必ず』


迎えに行くのだ。


晴れて償いを終えた妻を、自分が必ず。


たったひとりになってしまったけれど、家族として自分が迎えに行くのだ。


自分だけでも、行かなければ・・・


妻は・・・この悲劇をとても耐えられぬ・・・・・


それだけを心の支えにして、夫は他の一族に紛れながら逃げ隠れする生活を続けていた。


いつか必ず、きっと必ず。妻と・・・。


指折り数えて、一日千秋の思いで過ごす毎日。


そんなある日、夫はある噂話を耳にする。



「噂話・・・って・・・?」


あたしは低く沈んだ声で聞いた。


周りに立ち込める重々しい空気と同じくらい、重苦しい心と声で。


絹糸の口から聞かされる、あまりに惨い千年前の悲劇。


本当はもうこの続きを聞きたくない。


お岩さんもセバスチャンさんも、暗く沈痛な顔で無言のまま絹糸を見つめている。