神様修行はじめます! 其の三

「それを言えるか? 悲劇に見舞われた者に向かって」


あたしは言葉に詰まった。


雛形は、世界に惨劇が起こる事を承知の上で夫を選んだ。


生き残った者達にとって、それは・・・


『私の夫に生きて欲しいので、代わりにあなたの夫や子どもに死んでもらいましたから』


と言われたのと同じだ。


とてもじゃないけど、それは・・・。


「悲劇は悲劇を呼び、連鎖する。それが人の世の業じゃ」


「・・・・・」


「そんな中で、衆人の舵をとったのが門川じゃ」


大惨事から世界を、自分達を救ってくれた英雄。


門川がいなければ世界は全滅していた。


だから端境一族や女を裁く権利の全ては門川にある。


誰もがそう納得していた。


端境側に反論できるはずもない。


首を洗って門川からの処遇を待つより他になかった。


「その時に門川の出した決断が、『座り女』じゃよ」


生身の人間が結界を張っていたから、こんな惨劇が起きた。


だからその役目をこれからは人間ではなく、術具にさせれば良い。


結界術に秀でた女に術を施し、座り女の雛型とする。


そして次々と分身の座り女を生み出させ、この世界を守らせるのだ。


さすれば二度とこのような悲劇が起きる事もない。



「とどのつまり、端境から結界という特権を奪ったのじゃよ」


それさえ奪えば、二度と端境一族は表舞台に出てくることはない。


そして端境一族を、他の一族からの暴力から保護するという名目で、自分達の領地に囲い込んだ。


力も衰え、自分達に絶対に頭の上がらぬ端境を、完全に召抱えてしまった。


門川一族のひとり勝ちであった。