神様修行はじめます! 其の三

女は自分の残り少ない力の全てを使って、吹雪から身を守る結界を張った。


夫の全身を結界が包み込む。


体から生気が抜け落ちていく気配がやっと止まった。


『良かった! これで助かる! あぁ、あなた!!』


だが・・・・・・


すぐに異変は生じた。


― ピリ・・・ ―


安定していた空間に細いヒビのような亀裂が走るのを感じた。


女の胸にビクリと押し寄せる恐れ。


ヒビが大きくなるにつれて、恐れも巨大に膨れ上がった。


だが女は頭を振って恐怖を無理に押しやり、夫のための結界を張り続けた。


愛するがゆえに。



「しめ縄の一箇所がブツリと切れるのと同じ原理じゃ」


他の部分に問題は無くとも、ひとつ所が破損すればその全てに意味など無くなる。


知っていながら女が、切った。


ピリリ、ビリリと結界の裂け目が大きく裂けていく。


その部分に負荷がかかり、向こう側からのおぞましいモノの気配が漏れ出した。


裂け目に気付いた異形のモノ達が、目の色を変えて大挙して押し寄せている。


舌なめずりの音が今にも聞こえてきそうだった。


女は両耳を塞ぎ、両目を瞑り、ただ夫の無事だけを祈り続けた。


そして・・・・・・


ついに耐え切れず結界は崩壊した。


爆発のような音が轟き、不気味な鋭い閃光が四方に飛び散り世界を照らす。


惨劇の始まりの合図。

『あぁ・・・・・!!!』


咆哮と共に、世界中に異形のモノが大挙して雪崩れ込んできた。



「まさに不意打ちじゃ。思いもかけぬ総攻撃。しかも天候も最悪じゃった」


結界が張られているのだから、異形のモノなど入ってくるはずがない。


安心しきって油断していたところを、一気に突かれた。