千年以上昔の事じゃ。
あの頃はまだ、座り女など存在しとらんかった。
端境一族の中で、特に結界術に秀でた者が選出され、交代制でそれぞれ与えられた区間を守る。
そうやってこの世界は、異形のものから守られていた。
当時の端境の勢力は、それはもう、たいしたものじゃった。
なにせ端境がいなければ結界も空間も保たれぬ。
皆が感謝し、頼りにし、従った。
端境一族は、我が世の春を謳歌しておった。
「勢力は門川と二分・・・いや、門川よりも勢いがあった」
「門川よりも? じゃあ一番だったってこと?」
「うむ。門川は差をつけられていた。なんとか自分達の一族の勢力を伸ばそうと必死じゃった」
そうか。
ちょうどその頃に絹糸は門川の先祖たちに捕獲された。
そんな事情だったから、生まれたばかりの子猫ちゃんを人質にするなんて恥知らずなマネまでしたんだ。
端境よりも強力な力を手に入れたい一心で。
そこまで門川は切迫していた。
「端境の一族の中に、ひとりの優秀な女がおった」
絹糸は、どこか辛そうな声で話し続ける。
「当然、結界を守る者に選ばれておった。そしてあの日も・・・」


