神様修行はじめます！ 其の三

「少し静かにしたまえ。君はまったく周囲に対する配慮というものが無さ過ぎる」


「だから、あんたがそれを言うな――！！」


門川君は我関せずな顔をして、さっさと床の上に正座した。


ヒザの前にあたしの髪の毛をバラリと撒いて、印を組む。


そして静かに両目を閉じた。


「・・・絹糸」


「なんじゃ？」


「結界が破られるまで、少々の時間がかかる。説明を聞くには充分だろう」


「・・・・・」


「話してもらおう。全て」


周囲に濃度の濃い気が立ち込める。


座する彼を囲むように、床の上に白い円陣が浮かび上がった。


一同は揃って沈黙し、門川君の唇が奏でる言霊を聞く。


『清浄と不浄。作法と無作法。

衝立てる領域の暗黙なる仕掛けとは

甘美極める安堵の檻。

完全なる拒絶の血と感情を持ちて

純潔を引き裂く世界の終焉』


円陣が白い強烈な輝きを放ち、門川君の秀麗な顔を照らす。


散らばった髪の毛がボッと音をたてて燃え上がった。


紅い炎が細い柱のように一直線に天井へ伸び上がる。


「さすがは小娘の髪を触媒にしただけはあるのぅ。炎となって具現したか」


絹糸が感心したように言った。


「今頃、扉の向こうの小娘の髪も、あのように具現しておろうよ」


「げっ、燃えてんの！？　しま子ヤケドしちゃうじゃん！」


「じゃから、以前言ったであろうが。天内の炎とガスコンロの火を一緒にするでないと」


やれやれと首を振った絹糸が、よいしょと腰を下ろす。


「しばらくすれば結界は破れよう。その間に・・・話すとするか。昔語りをのぅ」


物思いにふけるかのように、絹糸がぽつりぽつりと話し出した。


千年前の出来事を、まるで昨日の事のように。