神様修行はじめます! 其の三

- シャアァァ・・・! ―


何かが勢い良く流れるような音がした。


そして黄色い結界術がバッ!と大きく広がり、一瞬にして雛型を包み込む。


うろたえた雛形は袖で顔を覆って身を固くした。


・・・ちょっと! なにするつもりよマロ!


雛形に酷い事するつもりじゃないでしょうね!?


結界術の中に、蠢く陰がボンヤリと現れ始めた。


「・・・あ?」


それを袖の陰から覗き見た雛形が驚いたように声を漏らす。


「母さま・・・?」


どこか雛型に面差しの似た中年の女性の姿。


ぼんやりとした陽炎のようにユラユラと佇んでいる。


母さま?

じゃあこれって雛型のお母さん? いや、その幻なの?


幻が、すうぅぅっと音も無く雛型の体の中に吸い込まれていった。


「・・・・・!」


幻と一体化した途端、雛型の表情が一変した。


「それは過去の事実と記憶を結界術にて封印したもの」


そうマロが言った。


「お前が雛型となったのち、近しい者達に何が起きたか、直に知るが良い」


次は、さっきのお母さんと同じぐらいの年齢の男性。


お父さんの記憶?


また、すうぅと雛形の体に吸い込まれる。


次は、もっとずっと若い女の子の幻が。


あたしと同い年くらいだろうか? ・・・妹さん?


やっぱり音も無く吸い込まれていく。


次から次へと幻が現れ吸い込まれる。


そしてその度に雛型の表情がどんどん変わっていった。


・・・激しい衝撃と、深い絶望に。


強張った顔も体もワナワナと震え、痙攣の発作を起こしているようだ。


きっと今、彼女は嵐のような衝動に翻弄されている。


限界まで見開かれた両目に透明な涙がみるみる盛り上がった。