神様修行はじめます! 其の三

絹糸の表情やあたし達の空気から、何か不穏なものをかんじとったのだろう。


雛形は不安そうな顔でマロに話しかけた。


「当主様、何か・・・?」


「雛型よ、お前の罪は許されてはおらぬ」


「え?」


見開かれた雛型の目に大きな失望の色が浮かんだ。


唇をパクパクと動かし、やがて悲しげにガックリうな垂れる。


「許されていない? では、私の家族はどうしています? 私の、あの人は・・・?」


「もう、いない」


「・・・・・は?」


雛型が怪訝そうにマロを見上げている。


「お前が雛型となり、罪を償い続けて月日は流れ流れ・・・」


「・・・・・」


「その歳月、千年」


「千・・・?」


「お前の家族も、愛した男も、もはや骨すら残っておらぬ」


「・・・・・」


「この世でお前を知る者は、残らず消え去った。お前はただひとり、遺されたのだ」


雛形にとって、それは全てが意味不明な言葉なのだろう。


ぽかりと開いた両目と口が、理解不能だとハッキリ訴えている。


「で、も・・・罪、は・・・」


ようよう、喘ぎ混じりの声が出る。


ギクシャクと首を回し、丸く見開いた目のままで雛形はあたし達全員を見回した。


「でも、雛形になれば罪は消える、と・・・」


「犯した罪は未来永劫消えぬのだ。雛型よ」


マロの言葉に雛型がビクリと怯えた。


そして・・・あたしの胸もその言葉にズキリと痛む。


罪は・・・犯した罪は、未来永劫・・・


- キンッ! -


空気を震わす音がして、マロの手の中に小さな三角形の結界術が現れた。


驚く雛型の額にマロはその手をかざす。


「自分の目で見るがよい。門川の仕打ちを」