神様修行はじめます! 其の三

ギクリと絹糸の体が震えるのが分かった。


マロが、明るい表情で自分を見上げる雛型に語りかける。


「雛型よ、お前の罪は・・・」


「よせ! それを言うでない当主よ!」


腕の中で身を乗り出した絹糸を見て、雛型が驚きの声を出した。


「まあ・・・あなたは門川の神獣?」


「・・・我を、知っておるのか?」


「はい。お会いするのは初めてですが」


「・・・・・」


「御子は? ご無事ですか? どのように過ごされていますか? さぞやお辛い日々でしょうね」


「・・・・・」


「惨い仕打ちを許して下さい。いつか必ず御子も自由になりましょう。その日を信じ、どうか耐えて下さい」


雛型は深々と頭を下げた。


絹糸は無言のまま、切なそうにその姿を見ている。


そして、おぉ・・・と声を振り絞り、耐えかねたように顔を逸らした。


マロが冷たい口調で話しかけた。


「絹糸殿、雛型の口からこのような慈悲深い言葉を聞き、今、何を思われるかな?」


「・・・・・」


「さぞや胸が痛んでおりましょうぞ」


ギュッと目を瞑って何も言い返さない絹糸。


あたしも門川君も岩さんもセバスチャンさんも、ただ無言のまま。


事情が分からないあたし達には、この会話の意味も分からない。


黙って成り行きを見守るしかない。


いったい絹糸は何を恐れているんだろう。


何に対して・・・こんなに恥じ入っているんだろう。


そう、絹糸は我が身を恥じている。明らかに。


これから何が起ころうとしているのか知る事もできず、刻一刻と事態は進んでいく。


なんの手も打てないままに。


その事実が皆の胸の中で焦燥感を募らせた。