神様修行はじめます! 其の三

一重目蓋の、切れ長の目。


大きくはないけれど涼しげな印象の綺麗な目をしている。


でもその目には意思の光がまだ見られない。


俯いていた顔が、ゆっくりゆっくり上がっていった。


命を吹き込まれたばかりの人形のように。


「・・・・・・・」


表情の無い顔が左右に動いた。


雛型の視線が、固唾を飲んで見守るあたし達全員の顔を確かめるように流れていく。


この空間全体を見回していた目の動きが止まり、やがて薄い唇が動いた。


「ここは・・・?」


誰に聞くでもない、自分自身に問いかけるような声。


少しだけ皺がれた掠れ声。


千年振りの・・・声だ。


「雛形よ」


マロの声が厳粛に響く。


「雛型・・・?」


「まだ記憶が戻らぬか? ここは端境の結界の中じゃ」


「端境・・・結界・・・?」


「よう戻ってきた。雛型よ」


雛型、結界、戻る。


薄い唇を動かし、その言葉を何度も繰り返す雛型。


少しずつ少しずつ、その両目に意思の光が宿り始めた。


お人形そのものだった表情にも、人間性が現れてくる。


あたしの腕の中で、絹糸が不安そうにそれを見守っていた。


「あ・・・私・・・は・・・」


「麻呂は端境の当主じゃ」


「あなたが? いいえ、われらが当主様は・・・」


「お前の当時の記憶とは違う。すでに代替わりしておる」


「代替わり・・・時が、流れた・・・?」


不思議そうな表情に赤みがさした。


明るい、喜びの色が顔全体に広がる。


「では・・・私の罪は許されたのですね?」