絹糸を抱き上げようとした時、ピシッと印を組む音がした。


振り向くと、セバスチャンさんが険しい表情で指先を頭上高く掲げている。


足元からズズズッと鈍い振動音が伝わってきた。


げっ!? これはセバスチャンさんのツタが蠢く音!


・・・やばいーっ!!


過去の苦い経験が骨身に染みているあたしは、絹糸を胸に抱えてとっさに警戒した。


セバスチャンさん鬼神モードが降臨する!


みんな、退避退避!

ここってシェルター無いのー!?


ズズズ!・・・ズズッ・・・


ズ・・・ゥ・・・・・・


・・・え??


振動が徐々に小さくなり、すぐに静かになった。


あたしは呆然と足元の様子を伺う。


もうピクリとも動きは感じられず、シンと静まり返ってしまっている。


セバスチャンさんがチッと舌打ちして呟いた。


「・・・ナメた真似しやがって・・・」


絹糸の変化もセバスチャンさんの術も、まったく発動しない??


ホホホと愉快そうな笑い声が聞こえた。


「ここは端境の総力を結集して作られた結界。いかなる術の発動も叶わぬ」


大きく肩を揺らし、マロさんはさも自慢げに宣言する。


「発動はおろか、ここから出る事すら叶わぬぞ。お前達は閉じ込められたのだ」


じゃあ、ずっと屋敷に篭もって力を溜め込んでいたのは・・・

このため!?


最初からあたし達を、ううん、門川君を罠にはめる計画だったの!?


だから承認の書を渡さなかったんだ!


いずれ痺れを切らした門川君が、自分からここに飛び込んでくるのを狙って!