部活を引退して、2学期からは涌井君はエナメルバックではない。
私と同じようなスクールバックで、野球のお守りはもうつけていなかった。
「ちゃんと私も持ってるよ」
野球のボールのキーホルダーをポケットから出す。
捨てたほうがいいんじゃないかって何度か思ったけれど、どうしても捨てられなかった。
「……それともう一つ」
「ん?なに?」
少し深刻そうな顔で言った涌井君に、私は首をかしげた。
「……金子が名前で呼んでいたのなら、オレは呼び捨てにする」
涌井君はちょっとだけ顔を赤くして、言った。
「あ、うん……」
「じゃあ、藤波さんもオレの事を名前で……」
「名字になってるよ」
「え?あー……」
私が指摘すると、涌井君は恥ずかしそうに笑った。



