いちこは事務所にもどって、高千にリズナータが護衛につくことを伝えた。


「そっか、やってくれるんだな。
思ったよりいいとこあるじゃん・・・魔王の弟が守ってくれるんなら走ることに集中できそうだ。」


「しかし・・・高級な魔族がよく、交換条件もなく約束などしましたね。
魔族って必ず物事は契約でしょ。報酬がいったんじゃない?」


経理部長で毒使いの朔良がさらっと言葉をはさんだ。


「契約したのか?」


「ま、まぁ・・・」


「報酬って何です?これは仕事の一部ですからね、当然リズナータも報酬はもらえるべきなんですよ。
言ってもらったら報酬をお支払しますから、遠慮なくいってみて。」


「あ・・・そんないいんです。」


「そうはいきません。報酬は何なの?
ほら、モゾモゾしてないでお言いなさい!」


「はいっ・・・私のキスです!」



「きっ!」


「すっ?って・・・なあどこにキスするんだ?
まさか、唇どうしの濃厚な・・・やつとか?」


「う。うん・・・たぶん。」


「それはダメだ!おめえがそんなめに遭うくらいなら、仕事を断ってくる。」



「でも、稲美屋さんって上得意様なんでしょう?
報酬いっぱい出してくださるところがあったら、弱い人たちの力にもなれるって七杜さんが言ってたもの。

私のキスなんてそんなの・・・それにリズは人間じゃないし・・・。」


「だから、だめなんですっ!」


「えっ・・・朔良さん!?」


「朔良、どうしてそんなにあんたが怒ってるんだ?」


「魔族とのキスは人間とのセックスも同じといいます。
体の内から熱く火照り、女体は相手の言いなりになるときいています。

おそらく、リズはそれが狙いではないかとね。
絶対の復活のために、人間の男など近づけないようにしたいようですね。」



「そんな・・・じゃどうすればいいの?」


「そうですねぇ・・・あっ、いい方法があります。
リズナータはキスで承諾したんですから、あなたの体内を熱くさせなければいいんです。

祐希にちょっと細工してもらいましょう。
いいものを作ってくれると思いますよ。うふふふふ」


結局、朔良は詳しいことを説明しないまま、稲美屋が依頼した黄金の女神像は高千が背負って現地をスタートした。


途中、聖智、静歌が悪霊たちを払いのけ、狼は蒜名と七杜が斬り捨てていった。


「よし、あとは1時間ずつに出てくる化け物のみだ!」


高千は潮花町へと走り続ける。

潮花町への入り口付近の用水路から、お化けナマズが飛び出してきた。


ゴゴゴゴゴゴォ


「でかいナマズが出やがった!」


高千がそう叫ぶと、高千の声を拾うマイクから事務所へとつながり、そこで様子をきいているいちこが別のマイクでリズナータへと命令する。


「リズ、ナマズを倒して!」


「おお、楽勝だ。」


大ナマズの位置から1時間後、今度は花嫁の霊が高千の前に立ちふさがった。


「なんだ?花嫁衣裳をつけた亡霊が、出た。」


「リズ、花嫁の霊を消せる?」


「ああ。高千!とびかかってきたらしゃがみこめ!」


「おお。わかった。」


花嫁の霊が高千へととびかかってきた瞬間に高千はスッとしゃがみこんだ。


「よし、消え去れ、幽霊!ぬぉーーーー!」


シュシュシュシュシュシューーーーッ

伸びた赤い爪が花嫁の霊を切り裂き、あっという間に水蒸気のように消えてしまった。


「次、行くぜ!」


高千は霊が消えてすぐにまた走り始めた。