いちこは祐希に、事務所がある潮花町内の中心に位置する町医者へと連れていかれた。

そこには胡紗々(こささ)先生と呼ばれる若き医者がいた。


週に1回、隣町の総合病院にも出向くらしいが、ほとんどは診療科目にかかわらず細かいケアをしてくれると有名な医師らしい。


「うん、静歌の手当がとても上手くできているから、鎮痛剤と軽い塗り薬でいけそうだね。

しかし・・・退治屋に女の子とはねぇ。
晴海ねえさんでさえ、受付専門だろう?

いくら、胸に何か秘密があったとしても、感心しないなあ。」


「あの、先生どうして?
触診しかしていないのに・・・?」


「僕はね、静歌と似たような人間なのさ。
信心深くはないけれど、人の命を助けたい思いは同じ。

だからかなぁ、触れると異物がわかるんだ。
もちろん必要な場合はオペもやる。

だけど、君の場合はもっと複雑そうだ。
今のところ、病気でもないみたいだし、そっとしておくよ。」


「ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。」


「ああ、気をつけて。退治屋はハードだよ。」



病院を後にした2人は事務所へと向かった。


「あの胡紗々先生って何でもお見通しみたいでしたね。」


「ああ、それが特殊能力ってもんだ。
もともと俺たちのような、あっちの世界の普通の人間にはできないことだがな。」


「だけど、ここでやっていくしかないんだよね。
あなたがそうやって生きてるように。」


「ああ、俺もここに来たときは目の前が真っ暗だった。
俺には守ってくれるものもなかったからな。

ひとりぼっちでどうすりゃいいんだって思ったさ。
七杜が拾ってくれなきゃ、今頃どうなってたか。」


「でも、祐希さんはとっても器用じゃない。
それは十分特殊能力だと思う・・・。」


「なぁ、おまえは自分を守るとしたら、どうやって戦いたいんだ?」


「ん~と・・・急にきかれてもわかんないけど、得意分野は呪いかなぁ。」


「呪い?やっぱり悪魔なんて抱えてるやつは言うことが違うな。」


「だって、魔法とか呪いの本を調べているうちに、あの紫の本を見つけちゃったんだもん。
私はもともとは歴女のはしくれで、日本や世界の歴史が大好きだったの。

それが転じて呪術に興味を持って・・・。」


「でも、それじゃ体術で突っ込んでくる敵が居たら意味がないな。」


「うん、リズ頼みだね。」


「リズは使えねえだろ。おまえが弱点じゃ・・・。」


「だけど、だけど・・・リズは強いわ。
それに、見かけとかみんなにはあんなだけど・・・私にはとても優しいの。
だから守ってくれると思う。」


「ああ、そうかい!そりゃ、いいナイトをお持ちだ。
せいぜい2人でベタベタやってればいい。」


「そんな言い方って!だってあなたが質問するから・・・。」


「すまない・・・。俺がふった話題だったな。
じつは、おまえにも何か作ってやろうかと思っちまったんだ。

晴海姉さんに爆弾をあげたように、何か俺でできることはないかってね。
七杜にも、何かできないかって言われたし。」


「ごめんなさい。そんなふうに考えてくれてたんだ・・・。
だけど、まだ自分に何が合うのかなんて見当もつかないから、ちょっと考えさせて。
研修中にいいこと思いついたら、祐希さんに相談にいくからそのときはお願いしていい?」


「ああ、もちろんだ。俺は高千と同じでおまえを守るのは苦手だ。
だから、せめてできる能力の範囲でおまえを守る方法を与えてやりたいと思ってる。

研修がんばれよな。」


「はいっ。」