(あったわ、合格・・・。)


いちこは大学も同じになる友達と集まってお互いの合格を喜びあった。


(こっちの世界での私の動かなかった時間って1か月もたっていなかった。
仮死状態のように眠り期間があっただけ。

なのに・・・あちらではいろんなことがあって、いろんな人に出会い、そして私を戻すために死んでしまった人が。

こちらでまだ会えていないたったひとり・・・。

いっしょに合格を喜んでほしいなんて贅沢は言わないけれど、他の人たちのようにさりげなくでもいいから顔が見れれば、元気で道を歩いている姿だけでも見れれば、私は救われるのになぁ。

ぽっかりと心に穴があいたまま・・・。

もう誰もいない。かりそめのお守り悪魔・・・リズナータ。
ずっと手を握っていたのに、飛んで行ってしまうなんてひどいよ。)


そんな喜びきれない表情をしているいちこに気付いた友達は、いちこを有名ホテル内にあるおしゃれなスイーツの店へとひっぱっていった。


「け、ケーキバイキング!?」


「いいじゃない、私たちのグループは全員合格できたんだからお祝いしましょうよ。
お酒が出てくるお店じゃないんだから、プチぜいたくよ。プチぜいたく!」


「そうよね。プチぜいたくくらいは普通のお祝いよね。うふふ」



そしていちこは美しいスイーツに囲まれた楽しいお茶の時間を過ごした後、家族へのお土産にいくつかまたケーキを買ってお店を出た。


ホテル内で解散をして、みんなホテルを出ていったが、いちこはそのときケーキ屋さんのレジ前に携帯電話を忘れていたことに気がついてケーキ屋さんの入り口へもどった。


すぐに携帯電話を手渡され、謝った後、すぐにホテルの出入り口へと向かったときだった。


ドンッ!


「きゃっ!」


「うわっ!」


いちこは大きな体格の男性にはじかれた形でケーキの入った箱を手放してしまい、中に入っていたケーキのクリームやゼリーが男性のスーツにベッタリとついてしまっていた。


「いったぁ~~~い。あっ、ケーキが!!
ちょっとぉ!いきなりぶつかってきて、どこ見て歩いてたのよ!」


「その言葉そのままお返しする。
走ってくるなり、俺の服をこんなに汚してくれてどうしてくれるんだ!」


「服なんて洗濯すればいいじゃ・・・ん・・・あ・・・の・・・あれ・・・うそ。
七杜さん!?」



「馴れ馴れしく名前で呼ぶなんておまえは、何様なんだぁ!?あん?
あれ・・・あの、どこかでお会いしたことありましたっけ?」


「い、いえ、以前お見かけしたときにどなたかが七杜さんとか呼ばれてたのをきいたことがあったので・・・えへへ。」


「めったに名前で呼ばれることなんてないんだけどなぁ。
けど・・・なんか俺もどこかで会った気がする。

もしよければ君の名前を教えてくれないかな?」



「私は垣花いちこです。
さっき、大学の合格発表があって受かってたので友達とここでお祝いしてたの。」


「そっか、祝いの帰りがこんなだとあんまりだよな。
そうだ、ケーキの弁償するからちょっとだけ俺の部屋に寄って、俺が着替える間だけ待っててくれないか?」


「部屋って・・・」


「仕事でこのホテルの広間を使って準備のために部屋をとってたんだ。
だから昨日からここに泊まってた。」


「じゃ、私が洗濯代をお支払いしますから、洗ってもらってください。」


「そうはいかないよ。学生に払わせるわけにはねぇ。
人生の先輩に任せろってな。

そのかわり・・・といっちゃなんだけど・・・あの・・・この縁を大事にしたいっていうか・・・。
俺とデートしてみてくれないかな。
俺がめいっぱいお祝いするからさ。」


「え・・・ぇぇえええええ!」


「そんなに嫌かな?
なんか君に七杜さんって言われたら、すごくうれしくなってさ。
どうしてだかよくわからないけど・・・素直にうれしくて。」