大学受験が終わった日の夜。

テレビで若手天才科学者の紹介をされていたのだが、小さいときから手先が器用で・・・と科学者の経歴説明があった。


「この科学者、祐希さん!すごい。祐希さん発明家としても大ブレークだわ。」


インタビューを見ていると、少しいちこをドキッとさせる発言をしていた。



「僕は以前、弱音をすぐ吐いてしまうような弱い心の持ち主だったんです。
けれど、そんな僕に『守ってもらおうとは思わないけれど、自分らしく生きてがんばればいい。』って言った女性がいましてね。

その人の言葉で、今の僕の姿があるといっても過言ではありません。
発明したもので人助けなんておこがましいことはいいません。守ることもきっとできないと思います。

しかし、僕の器用さを誰かの役にたちたいという僕の気持ちは伝えることができるし、相手の役にたつまでいかなくても、自分が納得できればそれだけで生きがいになってると思っています。」


「マジ・・・あの祐希さんだよぉ。驚いたなぁ。」


いちこはあまりに似た人たちを見てきて、内心ホッとしていた。


(あっちでの記憶がないご本人さんたちだったとしても、うれしいな。
別人かもしれないけど、私にとってはみんな仲間だもん。今でも仲間だもん。)



そして自由登校になっていた学校へと行ったとき、剣道部にあたらしいコーチが着任したところにはちあわせしてしまった。


「あいたっ!・・・あ、すみません!前をよく見ていませんでした。ごめんなさい。」


「いや、こちらこそ。小柄な女性にぶち当たってしまって申し訳ない。
怪我はありませんか?」


「はい、大丈夫です。・・・はっ!!!(蒜名さんそっくりだぁ!)
あ、あの・・・もしかして新しいコーチさんですか?」



「はい。君は卒業生みたいだね。
大学に行っても、体は鍛えておくことは大切だからね。がんばれよ。」


「ありがとうございます。後輩たちのことよろしくお願いしますね。」



退治屋のメンバーに似た人物に会えることに不思議さは隠せないいちこだったが、ひとりひとりの顔を思い出しながら笑顔になっていた。


(まるで、俺たちは元気でやってるよ~ってメッセージみたいだったなぁ。
私もがんばらないと!

でもうれしい。ずっと気になってたみんなの顔が見れただけでも、幸せな気持ちになれたわ。

だけど・・・ひとりだけ・・・会えてない。

どうしても会いたい人だけが・・・。
記憶なんてなくてもいいから、私に声なんてかけてくれなくてもいいから、元気で過ごしているところだけでも見れたらいいのになぁ。)



いちこは七杜のことが心配だった。
宇名観からとばされるときは、手をギュッと握っていた。

もちろんリズナートの姿だったけれど、いちこは絶対に手は離さなかったと記憶していた。
ずっといっしょだった。

手がちぎれようとも離れないと思っていた。

なのに・・・なのに・・・どうして七杜は現れないのか?



それだけが気がかりで、不満いっぱいだった。

そして・・・時は合格発表の日へと流れていった。