大学受験のため、その後いちこは他人のことを考える時間もなくなっていた。

年末には進路が決まっていく友達もいて、いちこは少し、イラつきはじめていた。

そんなとき、専門学校を受験した友人の誘いである神社へと願掛けに出かけた。



「ねぇ、ここの神社の宮司さんに祝詞をあげてもらうといろいろとご利益があるらしいのよ。
ちょっと出費かかるけど、やってみない?」


友人の言葉に何の疑いも金額の上限も考えることなく、いちこは自分もいっしょに申し込むことにした。


(あれ?宮司さんっておじさんだとばかり思っていたのに・・・若い人?)


いちこは前方で祝詞をあげている男性の様子を見ようとしたが、背中しかわからなかったが、友人とお礼をいって立ち去るときになって神主姿の顔を見て息をのんだ。


「あ・・・静歌さ・・・ん?」


「はい?あの・・・どこかでお会いしたことがありましたか?」


「い、いえ。きっと人違いです。ごめんなさい、今日はありがとうございました。」



この場で静歌とうりふたつの青年と友人に宇名観の説明をしたところで、おかしな人だと思われてしまうだけだといちこは判断して、神社を後にした。



(だけど・・・このどきどきはなんだろう?
ほんとに静歌さん、そっくりだった。)



「よう、お疲れさん。静歌。
もしかしてさ・・・さっきの女のコは・・・」


「いちこですね。でも、このことは誰にも一生話すことはなりませんよ。
高千。」


「わかってるって。この俺が神社にいろんな品物を届けてる運送屋になってるなんてわかってもカッコ悪いしな。」


「私たちがこうやってこちらの世界で関わっているのですから、他のみんなもおそらくどこかで彼女に接することがあるでしょうね。」


「そうだな。だけど・・・俺たちはこれからいちこと接点があったとしても、ゼロからのスタートだよな。
そうでなければ、いちこがまた消えてしまうかもしれないし。」


「そういうこと。いちこはまさに神の申し子なのですから。」



「なんからしくねえけどな。あははは。
近いうちに七杜に会えてくれるといいのにな。
こっちに来てから、自分が直接なんらしようとは思わねえのに、いちこには笑顔になってほしいとばかり思ってしまうんだ。

これはいったいどういう魔法なんだかな。」


「少なくとも魔力ではないと思います。
私たちの絆は強く結ばれていたとわかっただけで十分じゃないですか。」



その後、いちこは神頼みつながりで、隣町にある教会へと出かけてみた。
受験の2日前のことだったが、ここでまた息を飲み声が出なくなる出来事が起こった。


「えっ・・・綱樹さんに聖智さんまで・・・いっしょにうたってるなんて・・・。!」


いちこは2人に自分と会ったことはないかと勇気をだして尋ねてみたが、2人にNOと言われてしまった。


「そうですか。以前とてもお世話になった方がおふたりにそっくりだったのでびっくりしたんですが。」


「それはそれは・・・めずらしい体験ですね。
でも、2人してあなたの役にたてたとしたら、うれしいですね。
受験がうまくいくようにお祈りいたしますね。」


「ありがとうございます。(やっぱりここでも2人して私とは何のかかわりもないみたい。)」



そして、2日後の受験当日の試験官が朔良そっくりだったことにも驚いたいちこだったが、目が合ったときにまるで朔良が「オドオドしてないで、どっしりとがんばんなさいよ!」とでも声がきこえてきそうな優しい表情をしてくれたことによって、いちこは心に落ち着きをとりもどすことができた。


(退治屋のみんなや宇名観での知り合いにそっくりな人と出会ったのって、きっと私ががんばれるようにという神様の思し召しなのかもしれないわね。

さっきの朔良さんに似た人と目が合ったら、負ける気がしなくなっちゃった。うふふ。)