異国で咲く花

そして、2日間天使になったリズを夜中に呼び出そうと必死に祈ったいちこだったが、天使らしき形跡さえ何もないまま3日目の夜更けがきた。

(いつまで、祈ればいいのかな。
もしかしたら、もうリズは天のお仕事で忙しくなっちゃったから私の呼び出しになんて来ないのかも。)


「すまないっ!おまえの声はびんびん響いてたんだけどな、見習い天使の俺は雑用が多くてさ。
悪い、遅くなって。・・・え・・・いちこ?どうした?」


いちこはあきらめムードの濃かった気持ちを立て直すのに苦労するほど、天使のリズにびっくりしていた。


「言葉はあんまりかわらないのに、やっぱり天使になっちゃったんだなぁって驚いちゃって。」


「あん?かなりイケメンになってしまって気おくれしてるのか?あはは。
でもないか・・・なんか切羽詰った叫び声で呼んでただろ?
何かあったのか?」


いちこは今のリズが赤い本と七杜であることや、不完全な魔物であること。
そして、時空のゆがみでいろんな世界を本来守っている結界が消えていたという綱樹の説明などを話した。


「すまない。俺が弱かったためにいろいろと苦労させてしまって。」


「そんなぁ、リズは私を盾になって守ってくれたのに、どうして謝るの?
それが認められて天使にもなれたんでしょう?」



「いや・・・じつは俺がいちこといっしょにいたときは、祐希の意識と同居している手前いろいろと記憶から消えていた部分があったんだが。

祐希が去った今、俺はいちこに謝らなければならないんだ。

それはそもそも、その紫本だの青本だの・・・って本を作り出したきっかけなんだが、人間の時間にすれば何千年も前くらいの話になる。

俺は魔王の弟でありながら、腕力はからっきしで、魔力もイマイチな魔族だった。
下級のヤツラは肩書きだけで、へえこらしてくれたけれど、上級となれば近くを通っただけで俺が劣っていることはすぐに気付くのさ。


だんだん俺は責められはしないものの、表だって外出もできなくなっていった。
そんな俺に、兄はとうとう切れたんだ。」


「切れた?怒られたり罰があるの?」


「いや、魔界から跡形もなく消される。つまり・・・人間でいうと死ねってことだ。」


「あ・・・。」


「若かった俺は死にたくない、逃げたい思いで必死になって他の世界に形を変えてでも脱出することを考えた。

それがあの本。

もうどの色がどういう効果だったのかも忘れてしまった。
作ったのは俺なのに、忘れたんだ。

魔界の城の中で俺の隠れ家は書庫だった。

それで、本に仕掛けをつけることを考え付いた。
違う世界へ移動するきっかけになる本。俺に力を与える本。そして命を吸い取る本・・・。

でも、本に魔力を与えることはできても、俺自身が本に吸われるとか同居するってことが何度実験してもできなかった。

そんなときだった・・・魔界の空気に異変が起きて、思い切って俺は時空の闇に自分から飛び込んでやったらな、人間の一部になってしまったんだ。

そのときはその理由とかぜんぜんわからなかったし、おまえを守る使命もあったから異変なんか考えもしなかったけど・・・」


「何か知ってるの?天へ昇ったら何かわかったんでしょ!」