翌日、七杜は真衣華おばあさんのところへ出向き、すぐに赤い本をもらうことに成功した。

真衣華は赤い本を開けることには反対していたが、青い本の持ち主である祐希と宿主のいちこの話を聞くとさっと七杜に赤い本を手渡してくれたのだった。

そして、七杜にこういった。


「魂が分かれる痛さに負けちゃだめよ。
ひたすら、守りたい相手を大切に思いなさい。

形はどうであれ、あなたはあなたであることは変わりないと思ってもらうのよ。」



「はい、ありがとうございます。
心にその言葉を刻み込んで読みたいと思っています。」


夜になり、七杜は約束どおり退治屋のみんなと盛大な宴を楽しんだ。


「みんな・・・俺はうれしいよ。

俺という人間は形がなくなってしまうだろうが、うまくいけばいちことともにリズナータとして生きることができるし、祐希も必ず連れて帰って来たいと思ってるからな。

期待して待っててくれよな。」



退治屋のメンバーたちは、「おぅ」と声をかけたが笑顔と酔いは消えていた。


「じゃ、俺そろそろいちこのところへ行くわ。」


そう呟いてすぐに、赤い本の1ページ目が開かれた。


「あう・・・ううううっ・・・くっ・・・うわあああああ!」


「七杜!!しっかりしろ。七杜、おまえがいちこたちを助けなきゃどうしようもないんだ、頼む、がんばれ!」


10秒もたっただろうか?

あっというまに七杜の肉体は動かなくなり、転がった。


そして、いちこの胸が動き出したのがわかった。


「成功だな・・・。なな・・と。さすが私たちのボスだわ。」


いちこの目が覚めると、今度は消えていた祐希がボワン!と飛び出すように事務所に現れた。


「祐希!!無事だったんだな。」


「みんな・・・退治屋のみんな!戻ってこれたんだ。
俺、俺みんなに・・・あれ?

七杜は?どうして、寝転がったまま?
いや、違うな。

もしかして・・・死んでしまったのか?」


退治屋のメンバーが七杜の肉体に集まってうちひしがれているのを、いちこは呆然と見つめた。

「ど、どうして・・・?
七杜さんはどこへいってしまったの?」


すると朔良がいちこの胸を指差した。


「リズナータの代わりに?
うそ・・・だってリズは天使になって・・・願いが叶うといいねって・・・!!!!うそっ・・・そういうことなの?」


「どういうことなの?いちこ、リズは天使になっていったい何をしたのよ!
きちんと私たちにわかるように説明しなさい!」


いちこはリズナータが体を失って消失した後にしばらくして、リズナータの声で意識だけははっきりしていたらしく、心を通して会話をしたということだった。

魔族のリズナータは同属、異属にかかわらずひたすらいちこを守るために戦った結果、天界からの評価を受けたのだという。

そして、天使となり、いちこの体内には住めなくなってしまったのだが、もともと宿主として異世界にとばされてきたいちこにとって、心臓横に穴があいてしまった状態では生きていくこともままならない状態であり、かといって元のせかいにもどる準備すらできていない状況だった。


そして、別本である祐希の青い本の力を吸い上げたが、もともとリズナータは祐希の分身であったわけだから、祐希がもどるわけにはいかない宿主の体ということになり、祐希まで亜空間にさまようことになったがリズナータにとられていた人格や性質が祐希にすべてもどって、祐希はもとの世界へもどれる準備はできたらしい。