翌日から朔良の言っていたとおり、いつもの女性らしい?朔良にもどって事務所を仕切っていた。


(毒が見せた夢だったのね・・・。)


そう思いながらいちこは、事務所の伝票整理をしていると突然地面から突き上げるような振動が起こった。

ズズズズズーーーーーーーン!!!



「な、何だこの揺れは?」

七杜がそう叫んだ直後に、外で人の叫び声がたくさん聞こえてきた。


「おい、寮が地面に吸い込まれたっ!
それも、いちこの部屋だ。」


慌てて祐希が事務所の裏口から入ってきて叫んだ。


(私の部屋ですって!?どうして・・・。)


いちこが事務所の裏口へと移動しようとしたとき、再び強い揺れが起こっていちこは立った姿勢をくずして後ろへ倒れそうになったが、朔良がいちこを後ろから受け止めていた。


「ほんとに疫病神な女ね。
化け物を呼ぶだけではたりなくて、まだ私の腕の中に居たいわけ。」


「そ、そんなことはありません!転びそうになって助けていただいて・・・ありが・・」


いちこがそう言いかけると朔良はいちこの唇を人差し指でおさえて笑っていた。


「照れ隠しの冗談くらい把握しろよ。
それと、ここから出ちゃダメ。
事務所は毒と神仏の結界がはってあるから、原因が飛び出して来るまで待ちなさい。」


「でも、外にいる仲間が戦っているのに?」


「戦ってはいないわ。
戦闘になっていれば、みんなの連絡があるもの。

これはきっと・・・狙いはいちこだわね。
地面にうごめく気配がある。」


「じゃ、私がここを出ないと事務所が!」


「おバカ!ああそうですかって放り出すわけないでしょ。
私は朝まで愛を囁いた以上、あんたを守る気満々なんだから!」


「朔良さん・・・。」


「毒作りと経理しかできない私だけど、つい最近好きな女を守る趣味も追加されてけっこう気に入ってるのよ。
もっとしがみついてなさい!」


「はい。」


いちこはジワジワと足元が不安定になるのを我慢しながら、朔良に抱き着いたまましがみついていた。


しばらくして、つぶれた寮のいちこの部屋だったところから、10人ほどの魔物が現れたと蒜名が報告してきた。

しかも、その魔物は小さな火の玉をどんどん吐き散らし、このままでは町が火の海にもなりかねない状況になっていた。


いちこは朔良の腕から抜け出すと、外へと飛び出してリズナータを呼び出した。

「いちこーーーーっ!くっ、出ちゃいけないっていったでしょ!」


外では聖智と静歌が3人のいちばん火を噴く魔物を封印したところだったが、残りはまだ7人もいた。


蒜名の長刀と七杜の大太刀も敵を粉砕し、高千と祐希も攻撃の手を緩めなかった結果、5人倒し、残りは2人の魔物だった。


「おっし、残り2ひきも片づけるぞぉ!!!」


七杜の檄がとび、もう少しで魔物退治が終わろうとしていたときだった。


いちこが叫び声をあげた。


「きゃあああああ!!!リズーーー!」


いちこの足元から飛び出してきた巨大な虫がアリジゴクのようにいちこを吸い込もうとしていた。


いちこを捕まえ、空を飛ぼうとしたリズナータに残りの2人の魔物と巨大な虫が火炎弾を数えられない程撃ちこんできた。


「うわっ・・・ぎゃっ。くそぉ!・・・うっ。おわ。くくくっ!」


「リズ、だめ、私を離して。
背中が・・・リズの背中がなくなっちゃう!」


リズナータの背中は焼け爛れ、それでもいちこの盾となっていちこを離そうとはしない。


「リズナータ!いちこを投げられるか?
投げたら術で結界をはって退治する!」

と、聖智が大声をかけたが、いちこは首を振ってダメだと叫ぶ。


「やめて、それじゃリズも死んじゃうわ。
体が・・・リズの体が・・・やめて、リズの体がなくなっちゃう!
やめてよーーーー!」


いちこは泣きながらリズの腕を掴んでいたが、リズナータはニヤリと笑って

「いちこ、肝心なことを忘れてるぜ。
俺はいちこの心臓さえ元気なら、死なねえよ。

だから、いちこを投げるから、少し我慢するんだ。いいな。」


「でも、でも・・・リズの体が!」


「これはただの悪魔の器だ。俺は魔王の弟だぞ。
おまえが宿主であることに変わりはないんだ。うっ。

ほら、こうやって痛いと感じてるし、おまえが元気なら感覚はある。
しばらく休憩したらもどるから。なっ。
安心して俺に飛ばされろ。」


「ほんと?休憩したら必ずもどってきて教えるのよ。わかった?」


「ああ、わかったから、一瞬息を止めろ!」