朔良はにこっと笑みを浮かべながら、頬からいちこの手をつかんで自分の胸へと当てた。


「私は今は女じゃない。
見かけにとらわれて君は自分が今どれだけ危険な状況にあるかわかっていないだろう?

それともすぐにリズを飛び出させたら勝てるとでも思う?」


「朔良さん・・・はきれいだから・・・大丈夫。」


「なっ!・・・ふふっ。その手で七杜たちを骨抜きにしてるんだ。」


いちこは左右に首を振って、顔を赤くした。


「くくくっ。あははは。わかってるって。
あ~~~悔しいけど、負けた。
本物の女の子には勝てないな。

しかも、いちこはとてもしたたかでずうずうしいときているもの。」


そういわれていちこは今度はムッとふくれっ面をした。


「ずっと毒を扱って生きてきて、女の体に近くなったりもしたけれど、どこかで七杜のように誰から見ても男っぽく見られたいってコンプレックスはあったんだ。

だから、悪いこともやった。
逮捕されたこともある。
男をだましたり、女をだましたり、私の外見を使えば何かと便利だったけど、ずっと心が満たされなくてね。

退治屋になってからも、仲間とはうまくやっていけてるし、自分の居場所は事務所に確保されたけど、私のもやもやは消えてなかった。」


「もやもや?」


「仕事の達成感とか自分の活躍を素直に喜べる何か・・・とかね。
でも、あんたを必死で助けたときにわかったんだ。

男としての充足感がずっとなかったということをね。」


「私のおかげ?」


「そうそう。まだ口がまわりにくいんだね・・・。
言葉足らずに口をひねってやろうかと思ったけど、もとはといえば私のせいだから大目にみてあげる。

そう、あなたのおかげで女のあんたを守らなきゃ!救わなきゃ!って思った。
嫌でも、自分が男だと気付かされた瞬間・・・。

あ、怒って言ってるんじゃないからね。
冷静にそうだったと気付いて、あんたを助けるために調合して、口に含んで・・・ここまで連れてきて、うれしいと思う自分がいるなんて、七杜に負けないくらいバカな男だと思ってね。」


「七杜さんかわいそ・・・ふふっ」


「明日になって、あんたが回復して事務所にいけばそこから私はまたいつもの朔良にもどるけど、今夜だけはいちこ・・・男っぽい私に抱きしめさせておくれ。

そして、もし・・・この世界にずっと住む決心がついたら・・・いや、何でもない。」


「何ですか?」


「そのまま口数少なく生きられるように、毒をもっと飲ませてあげようかとね。」


「嫌っ!」


「はははは。ありがと・・・いちこ。
俺はおまえに感謝しているよ。」


「言葉が・・・。」


「これは夢の中だから、男の朔良が夜明けまで限定でいちこに愛を囁くんだよ。ふふふ。」



毒と薬でまだ口や頭がしびれるいちこには、そういう朔良の言葉が遠い世界から聞こえるようで、心地いいような、不思議なような。

ただ、ギュッと体にまわされた彼の腕の強さだけがちょっぴりどきどきさせていたり、安心させている原因でもあり、いちこの意識は真っ白な煙にまかれてしまうのだった。