静歌は目で朔良に合図を送り、自分は魔物に消滅の言葉を投げかけていた。


朔良は滝の中に飛び込むと、沈んでいくいちこの腕を掴んで水面へと上がっていった。


真っ青な顔になったいちこを見た朔良は、まずいちこが息をしているかを確認してみた。


「息はある・・・でも、なぜ?なぜ意識がなく、こんな真っ青になっている!?」


朔良はいちこの着ている服をゆるめ、様子をうかがうと、胸の谷間のちょうど上のあたりに青いあざのようなものが出ていることに気がついた。


「これは・・・そうか!いちこは魔物の支配を受けているんだったわ。
リズが苦しいから、宿主のいちこも・・・そういうことね。」


朔良は鞄から小さな瓶詰をいくつかとりだすと、ささっと調合し始めた。


「これならたぶん・・・。」


朔良は作った薬を口に含むといちこの口へ流し込んだ。


すると、青かったいちこの顔に赤みがさし始め、意識をとりもどした。


「あ・・・さく・・・ら・・・さ・・・」


「あんたには私が毒だったわね。
本当に・・・ごめんなさい。」



朔良の言葉は聞こえていたが、すぐに思うように口がきけない状況のいちこは思わず、朔良の手首をつかんで首をふった。


(ちがいます・・・お願い、伝わって。
朔良さんがそんなに気にやまないで。)



「いちこ!?何を言おうとしてるの?
知りたいのに・・・ああっ!自分でやっておいて、ほんとに悔しい!」



いちこはそんな朔良の様子に少し笑みを浮かべて、それでも言葉のかわりにコクリと何かを言いたそうに頷くことを繰り返した。


「わかったわ。もとはと言えば私の失敗。
今夜ずっとあんたの看病させてもらうわ。

だったらいいでしょう?」


それから、静歌から魔物封印に成功したことをきいた朔良はある家へといちこを連れていった。


不安そうな顔をしているいちこに朔良は苦笑いをして話しかけた。


「ここはね、私の家だよ。
ここにいるときだけ、私はもとの自分にもどっていると思っている。

いや、今日はかなりもとにもどってしまっていたな。
君が水の中に沈んでいくところを見て、いつもの私はあっというまに消えてしまっていたことにあとでどれほどびっくりしたことか・・・。」


「言葉が・・・語尾が・・・へん・・・だわ。」


「2人だけの秘密にしておいてくれよ。
私は、小さい頃からずっと毒を口にしてきたんだ。

それはね、両親が薬屋だったせいもあるけど、私自身が親に秘密を持っていたせいもあった。

その秘密っていうのはね、私は3才になったばかりのときに、化け物に呪いをかけられて、新鮮な食べ物を食べれば体は弱り、毒のあるものを食べれば健康でいられるというものだった。

3年続けたら呪いの効果は切れると神官たちは診断してくれていたのだが、私の呪いについては呪いの効果が切れるだけでは終わらなくて、そこから1年の間、信じられないだろうけど私の体は女性の体に変化し始めたんだ。

驚いて、毒の研究者を捜して原因をつきとめたら、今度は私の体が中毒症状を起こしていたことがわかった。

毒に対する耐性が不完全な子どもだったため、性別が不安定になったという話だった。」


いちこは手をのばして、朔良の右の頬を右手で撫でながら

「き・・・れい」とつぶやいた。