七杜はその場に腰を下ろすと低めの声で話し始めた。

「10代でグレてた頃があった。
退治屋ではなかったが、よわっちい化け物をやっつけては面白がってた時期でな。

1人だときついだろうが、みんなでやれば・・・なんて仲間内で盛り上がっちまって、山に魔物退治だって出かけていったんだ。

魔物はな、大したことがなかったんだが、運が悪かった。
退治した魔物は鬼の獲物でな、もうすでに弱っていたんだ。

鬼に攻撃された俺たちはちりじりばらばらで逃げ出したが、4人は岩場に追い込まれてしまった。

それを俺が大太刀で鬼を滅多打ちにして助けたんだが・・・。」


「鬼は倒したってことですか?」


「ああ、倒した。物理的にはな・・・。
けど、鬼の血をめいっぱい浴びてしまった俺は倒した鬼の呪いにかかってしまったんだ。

『口惜しや・・・鬼を斬り裂いた罪、一生背負わせてやるぞ。
我はおまえとともに・・・。おまえは今日から鬼だ。』ってね。」


「聖智さんや静歌さんなら払えないんですか?」


「もちろんやってもらったさ。
だが、霊じゃないからな。」


「そうですか・・・。」


「俺がいくらモテ男でもな、女といい雰囲気になった途端、鬼の姿になっちまう。
いくらなんでも、鬼と結婚しようなんて女、普通にはいないだろ。」


「そうでしょうか・・・。
私はさっきだって、びっくりはしましたけど、七杜さんだってわかったらうれしかったですよ。

七杜さんをよく知っている女性だったら、どんな姿になっても慣れていっしょに居たいって思うんじゃないかなぁ。」


「慣れるってのがネックだろ。」


「まぁそうですけど・・・ね。うふふふふ。」


「おまえぇぇぇぇえーーー!もういいよ。
いちこが逃げなかっただけでもマシだ。
出て行くのもやめてくれたしな。」


「まだ私なんとも・・・」


「俺の秘密を知ったからには傍に居てもらわないとな。」


「ええ、そうなんですかぁ?」


「そう決まってるだろ。
手元に置くか、殺すかはドラマのお約束だ!わはははは。

よし、今夜はみんなで鍋でもやろう。
うちは体力勝負の商売だからな。
買い物、つきあってくれよ。」


「じゃ、七杜さん荷物持ちですよ。
力持ちさんですもん。」


「お~し、任せとけって。」


2人は食料品の市場で鍋材料をどっさりと買い込んで事務所にもどった。


仕事を終えてそろった仲間たちがポカ~ンとした顔で迎えてくれた。


「いきなり・・・なんのイベントですの?」


晴海がまず質問した。


「今夜は鍋だってこと。
体力つけね~とな。最近、怪我とか増えたしな。」


「経費はどうするんです?
七杜のおごりかしら?」


朔良が嫌味っぽい顔でそう尋ねると、いちこは


「私とリズのおごりです。」

と言ったが、七杜は訂正して言った。


「鍋をしようと言いだしっぺは俺だ。
俺のおごりでいい。
それに、いちこが戻ってきてくれた祝いの宴だ。」


高千と祐希にいちこが酌をしていると2人が心配そうに話をしてきた。


「なぁ、もう悪魔野郎が何か頼みごとしてきても乗っちゃだめだぞ。
やっぱさ、魔族と人間じゃできてる素材が違うっつ~か、差別するつもりはないけどさ、出てくる効果が違うってわかったしさ。」


「うん、ごめんね心配かけちゃって。
次に何か試すときはマウスで実験してもらうことにするわね。」


「あははは、こりゃいい。悪魔の秘密は実験動物で・・・か。
なあ、いちこ。
今夜はすげえ男が抱きたくなったら、俺のところに来いよ。」


「もう祐希さんったら酔っ払ってないことまでしゃべらないでくださいよ。」


「俺はこういう酒が飲めてうれしいんだゾ。
素材的には俺たちがいちばん近い存在だろう?

手に手をとって日本へ帰ろう。
そして俺たちは・・・そして俺たちはな~~~~!」バタッ!


「はははは、祐希のやつ気持ちよくなって撃沈してやんの!」


「しょうがないわね。ほれ、この毛布でもかけておいてやりなさいな。
だけど、みんないちこが戻ってきてほんとにうれしかったようね。

こんな騒がしい宴は久しぶりだわ。
それに・・・七杜があんなに笑っているのを見るのもね。」


「朔良さん、七杜さんってわりといつも笑顔なんじゃ?」


「営業の笑顔と私用の笑顔とは違うわよ。
七杜とてもうれしそう。
長い付き合いだけど、毎回あいつの失恋の痛手をきいてばかりだった。」


「朔良さんって七杜さんと仲がいいんですね。」