聖智が事務所にもどると、七杜と朔良が暗い表情で座っていた。


「何か、あったんですか?」


「いちこが出て行った。」


「なっ!・・・どうしてです?
まさか、今回のことで?
いちこには、きちんと説明したんですよね。」


「それがな・・・あいつ、すべてのことを覚えていたんだよ。」


「どうして!毒消しと術は完璧だったはずなのに。」


「それだけ魔族の体液っていうのが強力だということなんじゃないかって朔良と話していたところだ。」


「で、いちこはどこへ?
誰か、後を追わせているんでしょう?」


「蒜名がつけているが・・・まだ連絡がない。」


「様子は?いちこの様子はどうだったんです?」


「もう、おまえに合わせる顔がないと言ってた。
そんなのは気にしなくていいと説得したんだがな。

恋もまともにしたことがない、いちこにとっては男を2人も襲ってしまったなんていうのは耐えられなかったんだろうな。

俺たちにもまっすぐ顔を見せてくれなかった。

とにかく、いちこはこの町に居る限り見張れるから、おまえはまず休め。
これは命令だ。いいな。」


「はい、少し眠ってきます。」



その頃、いちこは先日女神像を運び入れた教会を訪れていた。

「宇名観の神様・・・私はよそ者ですが救いを求めてもよろしいですか。

もうご存知だと思いますが、私の中には悪魔がいます。
でも、その悪魔はいつも私を助けてくれるし、私が嫌がることはしない悪魔なんです。

だけど、いつも邪険にしてたからキスくらい受けても・・・って思った私が甘かったのです。

魔族の血は私に乗り移って、私は悪魔にもそして、人間にもとんでもない害を与えてしまいました。

退治屋のみんなは私のせいじゃないって言ってくれるけど、私は私が赦せないんです。
いつも男性には拒絶行動ばかりとっていたのに、あのとき・・・私は欲望の塊みたいに男性を欲しがってしまいました。

こんな私はこの世界で生きていてはいけないんです。」



「では、君はここで自らの命を絶つつもりなのか?」


「えっ?」


いちこが振り返ると蒜名が礼拝堂の隅に立っていた。


「蒜名さん・・・私の後をつけてきたんですか?」


「君が死ぬ気なら、手伝ってやってもいいと思ってな。」


「そ・・・そうですか。いいですね・・・私は行くあてもありませんし、ここで生きている意味もわからないですから。

元の世界へもどうやってもどったらいいかわからないままなら、蒜名さんの剣で即死にしてもらえたら楽そうです。」


「一言、言わせてもらってもいいか?」


「何ですか?」


「殺す前におまえを抱きたい。」


「なっ・・・いきなり何言ってるんですか!
しかもここは・・・神様の前なのに。」


「答えは?俺は今すぐ抱きたいと言っている。」


「嫌です!私はいくら死ぬ前だからって、愛しあってもいない人と体の関係なんてもちません!」


「そうだな・・・それがいちこだ。」


「えっ!?」


「おまえも、俺たちも潜在的な欲望はいっぱい持ち合わせているだろう。
だが、時と場合を考えて行動しているはずだ。

まぁ、おまえの中の悪魔はいつも発情しているのかもしれんがな。

七杜からの命令なんだがな・・・おまえが傷つくのは勝手だが、おまえの考えが聖智の考えと同じなのかどうかは聖智に聞いてみなければわからない。

だから出ていくにせよ、死ぬにせよ、聖智にまず許しを請い、毒消しの礼を述べてからにしろってさ。」


「聖智さん、戻ってこられたんですか?」


「ああ、さっき事務所にきて部屋で休むと言っていたそうだ。」


「そうですか・・・。蒜名さん、私聖智さんに謝ってきます。
お話好きじゃないのにいっぱいしゃべらせてしまってすみません。」


「言ってこい・・・。(お話好きじゃない・・・か。
おまえのことになるとこんなに雄弁になってしまうというのにな。)」