高千が連れていった場所は事務所から20分ほど離れた山寺の裏だった。

見かけは古ぼけて所々が朽ちているところもある苔寺を抜けて、裏手に出てみるとそこはきれいな小川のせせらぎがあって花もたくさん咲いていた。


「うわぁ!お寺の裏にこんなところがあったなんて。
川が赤くなってきれいっ。きらきら輝いてるわ。」


「気に入った?俺、ここに来ると、明日はがんばらなきゃ!って気がひきしまるんだ。」


「気が引き締まるの?
どっちかというと、癒されるみたいなところなのに?」


「うん、花とかさ、水の流れとかは癒しだけどな、この夕陽の赤々とした光を見てると、なんだか力がわいてくるんだよ。
今度の仕事も、ここで、気合いれて臨んだんだ。」


「そうだったの。高千さんの速い足がなければ、この仕事はもっと大変だったんですものね。
いくら、リズだって倒す相手が多いと、私がへばってしまうから、限界があるし・・・。」



「1年なんだろ?あの悪魔が去っていくまでって。」


「そうみたい。だけどリズはあんまり1年後のことって話さないの。
今は、私の心臓がリズの命みたいなものだから、おとなしくしてくれてるけど、リズが復活したら、私はどうなっちゃうんだか。」


「先のことはほんとにわかんねぇけど、俺はおまえと会えないのは嫌だな。」


「高千さん?」


「あ、いや、せっかくわだかまりっていうか、こだわりってのがなくなったんだしさ、ちょっと遊びに出たりする友達になってほしいなって。」


「はいっ。私もこういうおでかけはとても楽しいです。
それに、初めてご挨拶したときの高千さんってとっても冷たい人に思えて、こんなふうにお話するなんて思ってなかったです。」



「ああ、確かにな。妙な格好して、どこの誰かもわからず・・・だったからな。
けどな・・・日本って言葉は祐希や七杜からきいてたし、祐希と同じ境遇だって思ったらちょっとだけど興味もった。

しかも体の中に悪魔が住んでるなんて、信じられないこと言われてしまってさ・・・信じろっていう方が無理だってんだ!

それが、俺が走る前後にボワ~ンとあいつが飛び出してさ、魔物を一瞬のうちに片付けていっちまっただろ。

あんなのを見せつけられたら、いくら俺でも認めざるをえない。
すげえパワーだからな。」


「ええ、私だって信じられません。
あのすごい力をもったリズが私のちっぽけな心臓から力を得てるなんて・・・。」


「1つ質問していいか?」


「ええ、何ですか?」


「リズナータとおまえはどこまで関係してるんだ?
あいつは、おまえにすげえ馴れ馴れしいよな。

で、あいつが報酬におまえとの接吻を要求したっていうから祐希がおもちゃを作った。
ってことは当然、体の関係とかってないよな。」


「あたりまえです!そんなのありません。
朔良さんが悪魔とキスしたら、ものすごい快楽を得てしまって、ずるずると関係してしまうまでいくっておっしゃるから・・・。

キスなんてしたことないです。
リズが勝手に私の体に触れたり、手を握ってきたりはよくありますけど。
そういう恋人にするみたいなことなんて・・・。」


「そうか。だが気をつけろよ。魔族ったって男だからな。
力づくではおまえは負けちまう。

それに、部屋でひとりでいるときにリズが何かしやしないかって・・・。」


「ああ、ピアスをこすったらリズはハウスにもどりますから。」


「ハウス!?そ、そうなのか。そんなことであいつは・・・帰ってしまうのか?
ボワッ~と出た反対ってことか?」


「そうです。パッと消えちゃうんですよ。」


「そりゃいい。いいこときいちゃったな。
あ、やべえ。もうすぐ夕飯だ、もどらないと。」


「ええ、高千さんごちそうさまでした。」


「いや、付き合ってくれてありがとよ。事務所までいっしょにいこうぜ。」