リズナータはいちこをぐっと引き寄せて抱きしめていた。


「いちこ・・・血生臭くないか?
これでも、水を浴びてきた。」


「まぁ、悪魔なのに聖水のつもり?」


「聖水は大っ嫌いだけど、汚ねぇ魔物の血でおまえを汚すことはできない。
おまえは、美人ではないけど、かわいいからな。

触れても、見つめても赤くなるその頬と唇がたまんねぇ。
ああ、もう我慢できない。
報酬をいただくぜ。怖いと思ったら目をつぶっていていいからな。」


「うん。」


そして、リズナータはいちこの唇へ勢いよく自分の唇を押し当てた。

ムギュッ!ズルッ・・・


「うぐっ?!うう。うぐぐぐぐ。うぐ~~~~ぐぐぐ!」


リズナータの唇にはベッタリとハエトリ紙のような唇型の樹脂がくっついたままになっていて、リズナータは自分の口も開けられない状況になっていた。


「うぐぐぐぐ・・ぐぐ!ぐぉぐぐぐぐ」


「ごめんね、リズ。みんながね、悪魔とキスしちゃ病気になるっていうから、祐希さんに偽クチビルを作ってもらったの。

悪気はなかったのよ。ごめんね。
そのかわり、私の血を少しだけど、お皿に用意したからこれで許して。
元気は出るでしょ?」


「ぐぐぐ、ぐぐぐうううう~~~」


「じゃ、お疲れ様。おうちへもどればクチビルの効果は切れると思うから、ごめんなさいね。」


いちこはリズナータの鼻からお皿の血を流しこんでから、ピアスをこすった。


リズナータが消え、入口から心配していた3人が飛び込んでくる。


「いちこっ!うまくいったな。」


「ええ、祐希さんの発明品すごいです。」


「いちこ、ほんとに今日はありがとな。
俺すっげぇ走りやすかったよ。」


「高千さん。おめでとう。いい仕事されましたね。」


「おお、あ、そだ。ちょっとついて来いよ。
俺からいちこへ報酬買ってやるからよ。なっ。」


「あ、高千さん、そんな気を遣わなくていいですって。」


「いいんだよ。俺の気持ちの問題さ。」


高千は町の中心へといちこを連れて出かけていった。


「わぁ、お店がにぎやかですね。」


「まぁさっきまで魔物騒ぎだったからな。
あ、この店がいいな。」



高千がいちこを連れて入ったのは、女の子に人気と噂の甘党のお店だった。


「懐かしい感じのお店だわ。
これっておしるこ?クリームあんみつまである。」


「好きそうだな。遠慮せずに食えよ。
じつをいうと、俺も甘いものは大好きなんだ。
いっぱい走ったから、なんか食べたくてさ。」


「高千さんの方がおいしそうに食べてる!あはは。」


「そうか?おまえだってがっついてるぞ。あははは。

なぁ・・・あのさ、もしよかったらだけど、こういうとこまたつきあってくれないか?
もちろん、仕事の合間とか休みのときでいいからさ。

俺ひとりで入るのがちょっと・・・な。抵抗があるっていうか。」


「こういうお店なら大歓迎ですっ!
このお店も教えてもらって、すごく得したなぁって思ってましたよ。」


「そうか、そういってもらえるとうれしいよ。

なぁ、この前さ、俺はおまえを守れないっていきなりつっけんどんなことを言っちまったけど、守りたい気持ちはあるんだ。」


「うん、わかってますって。
祐希さんも同じこと言ってました。

だけど、人それぞれできることは違うんですし、私なら大丈夫です。

こうやってお店に連れてきてもらえるだけで、とてもうれしいですから。」


「そうか。よかった。
でさ、ここを出たら、俺だけの秘密の場所へ行かないか?

あ、変なとこじゃないんだ。すごくきれいな景色のところがあるんだ。」


「きれいな景色?」


「うん、きっと気に入ってくれると思う。
もうすぐ夕方だから、すげえいい感じの場所なんだ!」


「わぁ、楽しみっ!」