* 調印が終わって内心のあまりの動揺にそのままバーに入った。 全く変わらない。 馬鹿だ。 綺樹は片手で顔を覆って嘲笑した。 当たり前だ。 記憶が無くたって本人なんだから。 いや、やっぱり別人なのだ。 私のことを何一つ覚えていないのだから。 だから、あの涼ではない。 ハイペースで大量に飲んでいくのを、バーテンが気遣うような視線を投げる のがうっとおしくなり、バーを出る。 エレベータを待つ間にポスターが目に入った。 蛍の季節か。 部屋には戻らずに、そのまま庭へ出た。