「来た」


唐突に、先程とは打って変わって、生き生きとした声を上げた。

重なるように落ちている雪の向こうにライトが光る。

黒塗りの車はゆっくりと近づいてきた。

アメリカへ迎えに行かせた使用人が、腕に抱えて降りてくる。


「寝ているの?」


ポーチの階段を駆け下り、聞きながら綺樹は幼子を抱き上げた。

寝てはいなかった。

母親似の長いまつげに縁取られたまぶたが上がる。

同じように淡い瞳が見上げた。


「なおゆき」


綺樹は語りかけるように呼びかけた。


「おいおい。
 聞いてないぞ」


涼のあきれた抗議を綺樹は無視をした。

性別はとっくにわかっていたから、今日まで夜毎に候補をいくつも綺樹に聞かせていた。綺樹が全く反応し
ないのに、興味ないと思い、勝手に決めようとしていたのだが。

諦めめいたため息をつく。