「こんな寒さの中、何をやってるんだ。
 しかもそんな薄着で。
 自分の心臓を考えろ」


涼のカッカした声に反応は乏しかった。


「そろそろ着くだろう?」


静かだが意識が他のところにあり、上の空の声。

そうだ。

その連絡があったから綺樹を探していた。

涼は綺樹の横顔をしばしみつめてから、ダウンのコートと毛布をとってきた。

コートを着せて更に毛布でくるむ。


「ありがとう」

「やっぱり降ってきたな」


白い羽毛が踊るように舞い始める。

あっという間に視界は一面の雪景色へと変わりつつあった。

正面門へ続く舗道の傍らに立つ桜は、薄紅色の花でなく雪の花を満開に咲かせる。


「積もる前に着くといいが」


綺樹は相変わらず反応をしなかった。