それは春の夜だった。

しかし暦上のこと。

東京は冷え込みが厳しく、空は羽毛布団のように、灰色の膨らみのある雲に覆われていた。

綺樹が妻に戻って、また1年が経とうとしていた。

発作は数回あり、精神状態も波があったが、驚くほど平坦な1年だった。

驚くほど。

嵐の前の静けさのような。

涼は西園寺の屋敷の中で綺樹を探していた。


「綺樹を見なかったか?」


通りがかった藤原に聞く。


「いえ、食後のコーヒーを召し上がった後は。
 コンサバトリーでしょうか。
 探して参ります」


子どもが“かくれんぼ”をするのに楽しめる家とはいえ、小柄でも綺樹は大人だ。


「綺樹」


大声を出しながら探していると、玄関ドアの外で返答があった。

コリント式の円柱が支えている玄関ポーチに佇み、門の方を見ていた。