「お疲れ。
 飲みに行く?
 それともアロママッサージでも受けに行く?」


ユーリーは口元にやっと笑いを作った。


「全く情け無いな。
 この年で失恋に参るとは」


綺樹は片眉を高々と上げた。


「音楽家とは恋多き生き物だろ?
 曲目の選択を間違えただけさ」

「ソロだったら、変えたんだけどねえ。
 本当に曲によっては後世に残るくらいの名演ができたよ」


少し気分が持ち直したらしい。

ユーリーには長く付き合っていた恋人がいた。

夫婦といえるぐらい。

もちろん男だが。

彼と別れたのか。


「若い子に走られた」


聞いていないのに、ユーリーがぼそりと言う。