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物事が凄い勢いで動く“時”というものがある。

それはビジネスに携わっていた時に何度も経験した。

綺樹は、またその動きの時であるのを、ユーリーに会って感じた。

携帯に電話があって、東京公演なんだ、と告げられた。


「来る?」

「行くよ。
 もちろん」

「じゃあ、会場のフロントにチケットを預けておくから」


涼に告げると、気を付けて言ってくるように言われた。

一緒に行く気はないらしい。

大方、途中で寝てしまうのが判っているのだろう。

成介を誘おうかとも思ったが、結局は一人で出かけた。

曲目はモーツァルトのバイオリン協奏曲7番だった。

春の明るい夕べ。

花が咲き乱れる庭園で、若い貴族の男が恋人に愛をささやく。

そんなイメージの曲が、物憂げで悲しげな音色になる。

ユーリー自身、どうしようもないようだった。

オーケストラの明るく朗らかな演奏と分離している。

残念ながら、今日のコンサートはお世辞でも成功とは言えなかった。

ユーリーもわかっているらしく、楽屋を訪れると茫然とした様子でソファーに座っていた。

綺樹は隣に腰を下ろした。