「本当に、おまえと利害が一致しているときは心強いよ」

「ええ、こんな優秀な秘書がついていて幸せだと思ってください」


涼はちらりと成介の目を見た。


「秘書もそろそろ卒業だな」

「そうですね。
 あなたも十分成長しましたからね」

「ご苦労様」

「配置転換は、この件の見通しがついてからにしてくださいよ。
 秘書の仕事も兼任なんて、オーバーワークもいいところですからね」


涼が了解の印に片手を上げる。

成介は口元で少し微笑をしてから部屋を退出した。

これで綺樹が涼がするであろう提案に乗らなくても、跡継ぎが出来る事にまではもっていける。

今の時点ではそれで十分だ。

かつて、最初に綺樹が妻として西園寺の屋敷にいた時、交わした会話が蘇る。

“あなたの自信は完全ではない。
 特にあの男のあなたに対する気持ちの部分は。
 だから、つい今日のように、私に聞いてしまう。
 その弱さは、とても利用できるんです”

“そうだね。
 そこが問題なんだ。
 致命的だ”


彼女の儚い笑い。

秘書室長の席に座り、執務室を向く。

ガラス壁を通して、成介は書類に集中している涼を見た。

そして更にその背後の空へ。

成介は静かに微笑していた。