腐った気持ちで、与えられた会議室に戻るためにエレベーターホールに向かうと、違う方向からの足音を聞いた。
綺樹はとっさに観葉植物の後ろに隠れた。
やっぱり涼だった。
慌しそうに書類を片手に歩いてくると、ぐるりとエレベータを見渡した。
どれが早く来るのか見たらしい。
すかさず、そこにいた女性社員が話しかけていた。
綺樹は壁に寄りかかると横目で涼の姿を眺めていた。
話しかけてきた社員を優しげに見つめ降ろし、丁寧に答えている。
“妻と元妻”を、そういう眼差しで見たことがあるか、と突っ込みたくなる。
見納めと思い、綺樹は視線で鼻筋から頬をたどった。
寂しさもあった。
悲しさもあった。
反面、少し腹立たしさを感じていた。
だからドアが閉まり始めたとき、綺樹はゆっくりとエレベータホールに入って、涼の真向かいに歩きだした。

