「好きなときに戻ってきなさい。
休学にしてあるから、そんなに大学には急いで戻らなくても大丈夫よ。
ウルゴイティのペントハウスを空けてあるから、しばらくゆっくりすればいいわ」
「ありがとう。
じゃあ、来月ぐらいには戻るような方向でいくよ」
「待ってるわ」
さやかに言われると、うるわしい毒だ。
綺樹は携帯を切って微笑した。
瞬は蒼白な綺樹を見つめる。
「大丈夫?」
綺樹は片手で顔を覆って一つ呼吸をした。
瞬は傍らに腰をおろすと綺樹を抱きしめた。
「駄目だって?」
「いや、いつでもどうぞって。
仕事を片付けなくてはね」
綺樹は少し顔をあげると、瞬の首の付け根に顔をうずめた。
鼓動が聞こえる。
規則正しく、力強く。
温かな腕の中。
だけどこれも終わりにしてNYに戻らなくては。
何もない場所へ。
寒い、とても寒い街へ。

