成介はグラスを置いた。
少し含みのある微笑をして顔を向けた。
「そうですね。
どうでしょうかね」
いつもの秘書として組んでいる同士の顔でもなく、花蓮の父親の顔でもなく、一人の男の顔だった。
初めて見たといっていいその顔に、綺樹はとまどった。
男がこういう表情をした時に綺樹がすることは一つだ。
婉然と笑って受けて立つ。
だけど成介相手に、それをするのはどうなのか。
ひたりと視線が合ったままだった。
成介は心の中を伺わせない数少ない人間の一人だ。
しばらく視線を合わせていたが、静かに成介は笑いを広げて、外した。
「まあ、いいでしょう」
今は、まだその時ではない。
成介は笑ったままグラスに口をつける。

