「そうしたら、明け方まで帰ってこないよ」

「うん、そうしておいで」


綺樹は優しく言った。

瞬は腹が立った。


「そんなこと、涼には言えないよね」


自分の発言に、自分自身、器の小ささに驚いた。

綺樹の表情が消えた。

ゆっくりと表情が戻ってくる。

明け方の湖のような静けさだと思った。


「言ってたから、あんなに愛人がいたんだろうな」


少し遠い眼差しになった。

それでもその過去を愛しんでいるような眼差しだった。

余計に嫉妬する。


「訂正。
 そんな風に穏やかに言えてなかったでしょ」


自分でも意地悪だなと思った。

彼女を傷つけ返してどうする。