高木は鼻の頭をなぜた。 「あいつにとっては、今でも市川は恋女房なんだな。 法的に別れても、妻の位置づけなんだ。 それにあいつ自身、気が付いていないから性質が悪いな」 綺樹は小首を傾げた。 「どうでしょうね」 「おまえもそれを認識していないから、尚更、性質が悪い。 頭がいいばっかりじゃ駄目だな」 高木の言葉は嬉しかったが、もう遅かった。 綺樹は会議室のドアを閉めて、ノブを握っている手を見つめる。 この指からとっくの昔に指輪はないのだから。