涼はちゃんとオートロックの中に入るまで見届けてから去る。
だから綺樹は自動ドアを抜け、エレベーターホールまで歩いた。
迷った。
どちらのボタンを押すか。
エレベーターか携帯か。
閉じたまぶたの裏に静まり返った自分の寝室と、涼と女の歩く姿が交互に浮かんだ。
この弱さが、いつも涼と上手くいかない原因だと既に十分承知していた。
でも今夜、この弱さをねじ伏せたって、もう涼との関係はどうもならない。
綺樹は携帯のボタンを押した。
迎えに来た瞬は綺樹をそのまま自分のマンションに連れてきた。
「さすが三島建設だ」
建物に感心し、部屋の中に入っても感心していた。
彼女ほどの地位と経歴と経験がある人に感心されると、自尊心がかなりくすぐられた。
嬉しくなって後ろから抱きしめる。

