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瞬に電話することに、躊躇いがまったく無かったわけじゃない。
朝、いつもどおり迎えに来てくれた涼の車に乗り込むと、やはりいつもどおり調子を聞かれて、綺樹もいつ
もどおり、別にと答える。
「そうか?」
いつもより長く、綺樹の顔に視線を止めている。
久しく忘れていたが、他の男と寝てくると、涼は必ず見抜いた。
でも今回は寝たというわけじゃないし。
涼はなんとなく不審げな顔をしていたが、やがて車を発進させた。
運転している横顔を綺樹は一瞬見た。
涼の出す雰囲気。
瞬との後で、やっぱりこの男を本当に愛していると思う。
ギアを握っている手に視線を降ろした。
その指に自分と揃いの指輪がはまっていたこともあった。
でも今はあの女の指が絡まっている。

