「ぼけてんだか、育ちなのか」


ぼやいている。


「育ちだ」


綺樹はエレベータのドアを見ながら言い返した。


「ペントハウスはボタンなんか無かったし、ダバリードだってエレベータ内のパネルに社員証をかざしたら勝手に連れて行ってくれた」

「それはセキュリティーの問題でだろ。
 これが普通のエレベータなんだよ」


ドアが開いたのに、涼が後ろから腕を伸ばし、綺樹の代わりにカートを押して行ってしまった。

ああ、自然だな。

カートを押すために上げたままな腕に気が付いて下ろした。

もてるんだろうな。

今更のように思って涼の背中を見送る。