「綺樹」
腕を掴まれ呼ばれた声に綺樹は我に返った。
目の前に涼が立っている。
片手で顔をなぜる。
「ああ、ちょっと考え事をしてた」
綺樹は片手を見た。
持っていたはずの本が床に落ちているのに拾い上げる。
「後、どのくらい?」
なんでもないように聞く。
「三冊かな」
「そうか。
こっちは終わったから、リスト頂戴。
助かったよ。
どうぞ湯上りビールを飲みに行ってくれ」
カートに本を積む。
「おまえさ、この長さの付き合いで、そう言って行く男じゃないの知ってるだろ。
言うだけ馬鹿臭くないか」
涼はそのままさっきまでいた通路に戻っていった。

