「おれ、今日はがっつり仕事をしてきたんだけどなあ」
「当然だろ、社長なんだ」
「今頃、湯上りビールのはずが、なんだってこんな」
さらに愚痴を続けながら渡されたリストを手に書棚を目で追っている。
「じゃあ、なんだってこんな所に現れたんだよ」
言葉尻をとらえて綺樹は該当の本を抜く。
「全然携帯に出ないから心配したの」
暁子との夕食を早々に切り上げる羽目になった。
「よく、ここにいるってわかったな」
綺樹は不思議そうに、開いた本から涼に顔を移した。
「先輩に電話をしたら、ここの作業だっていうから。
自分では優雅に晩酌していたぞ」
心底うらやましそうなのに、綺樹は軽く笑った。
「そんなに飲みたいなら、後でビールぐらいおごってやるよ」
「飲んだら、運転して帰れないでしょ」
涼はさらっと言って見つけた本を抜いた。

