「泣いているじゃないですか」 綺樹が成介にしがみついた。 涼は綺樹の肩が震えているのを見た。 顔をそらせて髪を掻き揚げる。 「甘やかすな」 低く言う。 「甘やかしたらいつまでも元に戻らない」 成介は片手を綺樹の背中に回した。 「それは」 一旦言葉を区切って気持ちを落ち着かせる。 「今まで甘やかしたことがある人が言える台詞です」 成介の言葉は確実に突き刺さったらしかった。 「そうか」 涼が背を向けてエレベータに行ってしまった。 成介はため息をついて腕を解いた。