涼はパンをコーヒーで流し込むと、綺樹の口に無理矢理、果物を押し込み、牛乳を飲むのを強要し、あわただしく車に乗り込んだ。
「明日から、もっとちゃんちゃんと動けよ。
出社時間に間に合わないぞ」
綺樹が聞いているのか聞いていないのか、わからない。
ぼんやり助手席側の窓の外を見上げている。
会社の地下駐車場に降りる頃になって、綺樹の様子が変わった。
顔を片手で覆う。
「着いたぞ」
綺樹は首を振った。
顔を覆った手の指の隙間から、目をぎゅっと閉じているのが見える。
「降りなきゃ、仕事場にいけない。
一日、このままここにいる気か?」
綺樹が体に力を入れた。
涼はくちびるを結ぶと助手席側に回った。

